裏庭からスピカ

基本は雑記、ときどき小説の話……をしたい。

とても静かな場所

ついつい積ん読をしてしまう人は少なくないでしょう。かく言う私もその一人でね。

「三回生まれ変わっても読み切れないんじゃねーかこれ」と思いながらも、何ら対策を講じることなく無造作に積み上げていたわけです。

しかしようやく重い腰を上げ、「同じ人生を三回やり直しても読みそうにない本は売る!」と固く心に誓って仕分け作業を行っておりました。

当然ながら結構な分量になりまして、近所のブックオフへ持って行けば買取の査定待ちで長く待たされました。そらそうよ。

その待ち時間を使って、あるマンガを久しぶりに読み返しました。豊田徹也『アンダーカレント』です。これがもう刺さる刺さる。

 

以前に読んだのはそれこそ十年くらい前のことでしょうが、そのときも「これはすごい作品だ」と唸ったのを覚えています。ですが今の方がさらに深く食い込んできた。年齢によるもの、と言ってしまえばそれまでですけどね。

淡々と静かな日常が進行しているはずなのに、銭湯を営んでいる関口かなえの夫の失踪、素性のわからない寡黙な男・堀の存在などによって常に物語は緊張感を孕んでいます。そこに一筋縄ではいかないタイプのサブじいや探偵の山崎が加わって、より多面的な顔を見せてくれるのです。コメディタッチの箇所も意外と多い。

とにかく余韻を残すラストまで本当に素晴らしい。ちなみに同じく豊田徹也による『珈琲時間』にも探偵の山崎が登場します。こちらもいいですよ。

 

つい先日読了した宮下奈都『羊と鋼の森』も、静けさに満ちた光景が絶えず脳裏に浮かんでしまう、そんな物語でした。出だしがとても好きで。

もしかしたら、売り払った本たちの中にも静かな衝撃を与えてくれるものがあったのかもしれません。というかあったんだろうな、たぶん。

そうはいっても今さらです。縁がなかった、と諦めるしかありません。