裏庭からスピカ

基本は雑記、ときどき小説の話……をしたい。

家族最強論

昨年末の話ではありますが、王城夕紀『天盆』を読みました。『青の数学』で名を馳せた方のデビュー作ですね。

架空の古代中国を舞台としたファンタジー小説で、これがまた面白かったのです。一つの場面を短く切り上げることによって畳み掛けるようなハイテンポで物語が進んでいく。

このスピード感はまるでかつてのフェニックス・サンズだ、と読み進めながら思う。HCとなったマイク・ダントーニの下、スティーブ・ナッシュを中心としたラン&ガンオフェンスで圧倒的な得点力を誇った頃の。100点ゲームなんて当たり前、とにかく速い展開に持ち込んでひたすら撃ち合う、とても魅力的なチームでした。

そんなサンズの前に立ちはだかっていたのがサンアントニオ・スパーズ。史上最高のPFとも評されるティム・ダンカンを擁していたスパーズは、この二十年の間に五度もNBA制覇を果たしている、リーグ屈指の強豪球団です。結局、サンズはその壁を越えることができませんでした。

だけどスパーズのバスケットボールもまた美しい。ハーフコートで時間をかけ、徹底的にパスを回し時にはドリブルで仕掛けながらフリーの選手を作る。競技は違えど、そのスタイルはまるでバルサのサッカーだ。そんな常勝スパーズを率いるグレッグ・ポポビッチHCは、自らのチームを「家族」と呼ぶ。

で、話は再び『天盆』に戻ります。『天盆』もまた家族の物語でした。父と母、そして十三人の子供たち。末の子である凡天が、囲碁や将棋のような遊戯“天盆”の才能を見せたことで物語は動きだすのです。

この家族がたまらなく好きだ。一見ただのろくでなしでしかない、そんな父親の少勇がいればこその家族の物語。おすすめです。

君の庭

何か『君の名は。』っぽいタイトルだな、と思われそうですが実際その通り。『君の名は。』+『言の葉の庭』の話です。といってもメインは『言の葉の庭』、しかもノベライズの方。

 

2016年夏に『君の名は。』が公開されたわけですが、どえらいヒットだということでさっそく書店にも特集コーナーが組まれておりました。そこに新海誠自らによる小説版『言の葉の庭』も並べられていたのです。映画は1時間にも満たない長さだったにもかかわらず、なぜか400頁近い厚さ。

その理由は目次ですぐにわかります。靴職人を目指す少年孝雄と雪野先生の交流に絞って描いている劇場版に対し、小説版は二人の周囲の人間も含めた群像劇といっていい。

 

全10話+エピローグという構成で、秋月孝雄の兄や母、雪野先生のかつての恋人などがそれぞれ一つの話の主役となっているわけですが、その中で最もインパクトがあったのは間違いなく第7話の相澤祥子です。

映画は観ているんだけど誰だっけ、と思われた方には「雪野先生が休職に追い込まれる元凶となった女子生徒」と説明すればわかりやすいでしょう。

何が衝撃的って、自ら「ヒエラルキーの底辺だった」と認める彼女の中学時代に、とても親しい友人として登場するのが勅使河原とサヤちんなのです。たぶん、この箇所を読まれた人のうち95%くらいは「こいつ三葉やんけ!」と心の中で叫んだことでしょう。残りの5%は口に出して叫んだ人。

そして読み終えた後でまた思う。相澤祥子は立花瀧に出会えなかった宮水三葉なのだ、と。理不尽さすら感じるほどのパラレル・ワールドなわけですが、外罰的でありながら内罰的でもある相澤への新海誠の目線は優しい。他の人物の章で彼女が今後立ち直ることを示唆しています。

 

昨夜の地上波初放送『君の名は。』を見逃して、そんなことを思い出しました。

小説版『言の葉の庭』、劇場版をご覧になった方には特におすすめします。

笑えばいいと思うよ

お笑い界についてはぼんやりとした知識しかなくどちらかといえば疎いのですが、海原やすよともこだけは動画で観て以来はまっております。

彼女たちはすごい。何がすごいって、作為の匂いがしない。漫才のための特殊な状況設定を必要としていないように思うのです。

“街のどこかで交わされている、関西のおもろいねーちゃんたちの会話”をそのまま漫才にまで昇華させることができる、それがやすともの魅力でしょう。

 

先頃行われた漫才のビッグイベント、Mー1グランプリで優勝を果たしたのはとろサーモンでした。

前述の通りお笑いに疎いものですから、コンビの名前を知ってはいても彼らの漫才がどんなものなのかはまったくわからない。ミーハーっぽいですけどちょっと気になりました。なので決勝で披露した二本のネタを動画で観てみたのです。

そしてあっという間にファンになりましたとも。

たぶん、かなり好き嫌いがわかれるタイプのスタイルだとは思います。「どこが笑いどころ? さっぱりわからん」と口にする人がいても仕方ない。ですが“芋神様”ネタは個人的にめちゃくちゃ笑えました。

 

アナーキーさというか破れかぶれな雰囲気を漂わせる、異端の漫才師コンビとろサーモン海原やすよともこの正統な感じとは真逆かもしれません。でもどちらも面白い。

私が知らないだけで、きっと他にも実力のある漫才師たちがたくさんいるんだろうな。

ブッフォンが泣いている

ああ……。「こんな最後は望んでいなかった」と言われると、もう。

ビッグイヤー以外はすべて手に入れたといっても過言ではない、生きる伝説と呼んでも何らおかしくないほど輝かしいキャリアを誇るブッフォンであっても、W杯の出場権を逃したとなれば人目をはばからず涙してしまう。

だからこそサッカーを観てしまうのだ、と言うべきなのかもしれませんね。

それにしてもオランダに続いてイタリアまで予選敗退とは。ヨーロッパは厳しいな。

墨谷高校に魔曲を

風呂に入っていると窓の外から蛙と鈴虫の鳴き声がダブルで聞こえてきます。暑いのにはまだ変わりありませんが、徐々に秋の気配も忍び寄ってきているようです。

高校野球も準決勝と決勝を残すのみ。今年はやけにホームランが飛び交っているせいで、セーフティーリードというものが存在していない様相を呈しています。そんなのはかつての智弁和歌山高校戦くらいのものだと思っておりましたが。

智弁和歌山高校といえば魔曲と呼ばれる「ジョックロック」に触れないわけにはいかんでしょう。ちなみに高校野球における魔曲とは、ビッグイニングや逆転劇を誘発する空気を持つ応援曲のことですね。

全盛期の智弁和歌山高校の豪打をご存じの方ならば「智弁和歌山のアレ」で通じてしまうほど有名な「ジョックロック」ですが、元はYAMAHAが配布していたMIDI音源の曲なのだそうです。それをあそこまでの魔曲に仕立て上げるとは慧眼にして凄腕。

 

そういえば高校野球マンガの名作である『プレイボール』にまさかの続編が。現在グランドジャンプにて連載中でして、読んでみてびっくり。ちばあきおの画風そのままでコージィ城倉が描いているのです。ここまで再現できるのかと本当に驚きました。

うーん、続きが非常に気になる。谷口率いる墨谷高校が念願の甲子園出場を果たせるよう、ぜひとも魔曲が後押ししてほしいところ。