裏庭からスピカ

基本は雑記、ときどき小説の話……をしたい。

さよならだけが人生だ

花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ。

唐代の漢詩をそう訳したのは井伏鱒二ですが、本当にすごい訳だなとしみじみ感じます。平仮名の良さを存分に引き出した、とでも申しましょうか。

 

そんなわけで話は飛びます。現在公開中のアニメーション映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』を観てきました。ジャンルはファンタジーですね。

予告動画を観た段階では「よくある感じの恋愛ものかねえ」という不安を拭えなかったものの、何となくファンタジーを体が欲していたので行ってみたのです。

『15時17分、パリ行き』とギリギリまで迷いましたが、あちらはクリント・イーストウッド監督作品なのでたぶん上映期間もそこそこ長いはず。なので後回しでもいいか、と。

結果からいえば『さよならの朝に約束の花をかざろう』、恋愛ではなく親子の物語でした。私は好きです。観に行ってよかった。

 

ストーリーやキャラクターについては公式サイトに結構詳しく説明されていますし、劇場でご覧になった方もいろいろと書かれているようです。なのでここでは割愛。

おそらく、この作品に合うかどうかのポイントは時間の描き方でしょう。観ている側を置き去りにするくらいの跳躍が何度かありますから。それぞれの場面をもっと丁寧に描いてよ、と感じた人も少なくない気がします。

でも私が「いい!」と思ったのはまさにそこなんですよね。

 

この物語は最初から最後まで、主人公であるマキアの個人的な物語です。作中の言葉を借りれば彼女の“ヒビオル”、健気な少女がただただ日々を一生懸命に生きていく姿を観客は見守っていく。

だけどダイナミックな時間の流れを描くことにより、そんな個人的な物語が神話的な色彩を帯びたように思うのです。映画における2時間という制約の中でよくぞ、と観終えた当初は感じましたが、むしろ制約があればこそなのかもしれません。

 

もうすぐ年度も変わります。初めて親元を離れて暮らすことになる、そういう方たちにぜひおすすめしたい作品です。